吉田成研究室  |東京工芸大学芸術学部写真学科|

写真表現・写真史・画像保存を研究する吉田成研究室。

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古写真の調査・鑑定の方法
写真は何時、誰によって発明されたのかご存知でしょうか?現存する最古の外界を写した写真は、1827年にフランス人のジョセフ・ニセフォール・ニエプス(1765〜1833)によって撮影され、ヘリオグラフィーと命名されました。この写真術はアスファルトの感光性を利用した方法でした。その後、ニエプスと協力して研究を進めたフランス人ルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(1787〜1851)が、銀板上に画像を形成する方法を完成し、ダゲレオタイプ(日本では銀板写真ともいう )と名付けて1839年に公表しました。日本にはじめて銀板写真が渡来した(輸入された)のは嘉永元年( 1848 )で、場所は長崎、輸入者は上野俊之丞であったとするのが、現在のところ最も有力な説です。このように、日本には、約 160年に及ぶ写真の歴史があり、日本の写真史に関する優れた研究書も出版されています。しかし、その数は決して多いとは言えず、また写真史料学や写真鑑定学といった分野は、 未だ確立されていないのが現状です。しかし 前述したように、近年、日本においても写真を歴史資料として活用しようとする社会的要求が高まってきています。したがって、古写真の調査・鑑定法の道筋を切り開き、ひいては写真史料学・写真鑑定学を確立してゆくことが必要になってきていると言えるでしょう。

そこで、以下に私が現状で考えられる古写真の調査・鑑定のポイントについて、簡単にご紹介させていただきます。
1)被写体による分類・整理
古写真を研究する場合に限らず、他の 画像史料を研究する場合にも類似のことが言えると思いますが、先ず、写真を被写体によって分類・整理する必要があります。人物・風景・生活・風俗・事件・戦争・建物などといった分類・整理がそれです。

2)サイン・裏書き・メモ等
写真の価値を評価する基準の一つとして、サイン等の有無がります。写真のサインは多くの場合、画面の外に書かれます。また、ある作家は写真の裏面や余白にサインをし、またある作家は台紙に鉛筆でサインをします。また、たとえばエリファレット・ブラウン・ジュニア( 1816-1886)のダゲレオタイプのように、画面内に先の尖った道具を使用して、銀板を削るようにサインを書き込んでいる写真家もいます。また、サインの代わりにエンボス・スタンプなどを、余白や画面内に押す作家もいいます。最近では、写真に悪い影響を与えないペンを使って余白にサインをする作家も多くなりました。
しかし困ったことに、古写真の場合にはサインのないものが多数存在します。名刺写真などの場合には、サインに代わるものとして、台紙の裏に写真家の名前やスタジオ名、住所などが印刷されており、これらの情報は撮影年月日を特定したり、撮影者や被写体となった人物を特定するなど、写真を調査・ 鑑定するのに大変役に立ちます。このような台紙裏面の印刷の他に、撮影者、ないしは第三者による裏書きやメモ書きなどがある場合があります。こうした情報も写真の調査・鑑定に有効な情報となるのですが、手書きによる裏書き・メモ書きなどは、後年になって第三者が書き込んでいる場合もあり、時には間違えた情報が書かれていることもあるので、情報として利用する場合には、充分に検討する必要があります。

3)ケース・アルバム・台紙など
ダゲレオタイプやアンブロタイプなどのような、ケースに入っている写真の場合には、それがオリジナルのケースかどうかを観察する必要があります。というのは、ケースによって、その写真が作成された国や年代を大雑把に推定することができるからです。また、オリジナルのケースの場合でも、ケースを解体した形跡があるかどうかを確認する必要があります。素人がケースを解体した場合には痕跡が残ることが多く、その場合には不適切なクリーニングなどが施されていることもあるからです。
またアルバムや台紙などによっても、写真が制作された国や年代を大まかに推定できることがあります。日本の蒔絵アルバムなどは、その典型と言えるでしょう。また、アルバムや台紙には、写真のタイトルや撮影場所などの必要なデータが書き込まれている場合もあります。

4)写真技法の識別
古写真の調査・鑑定の中で、特に専門的知識が要求されるのが、写真技法の識別だと思います。写真が発明されてから今日に至るまでの間に、数多くの写真技法が発明・公表されました。そうした種々の写真技法の中で、調査対象となっている古写真が、どの技法で作成された写真かを識別するする必要があります。特に、古写真をコレクションとして保存しようとする場合には、写真技法によって写真の保存・利用方法などが異なる場合もあるので注意する必要があります。

5)コンディション
劣化の状態・程度などは、古写真のマーケット・ヴァリューを大きく左右するばかりでなく、その写真の履歴を推測するのに非常に良い情報となります。劣化の進行方向などを観察することにより、その写真が、どのような環境に、 どのようにして置かれていたかなどを推理し、写真の史料としての性格を知る手掛かりを得ることができます。古典技法を使って作った 新しい写真 ということも有り得るので、劣化の状態や程度が自然にできたものかどうかなどを観察することも必要です。

6)サイズ
古写真の調書作成にはサイズを計ることは不可欠です。古写真はコンタクト・プリントされていることが多いので、プリントのサイズを計ることは、原板のサイズを知ることになり、原板のサイズを知ることは、使用したカメラのフォーマットを知ることにも繋がります。

7)歴史考証
他の文化財の調査や鑑定の場合と同様に、古写真の調査にも文字史料等による歴史考証をすることは必要なことと言えます。歴史上重要な人物は、日記などの文字史料を残している場合も少なくありません。写真は絵画や文学と異なり、 記憶や想像では画像を残すことができないので、写真を撮るためには、その時、その場所にいなければならなりません。写真の裏書き等に記された撮影者・撮影場所・撮影年月日などと、日記やその他の文字史料とを照合することは、写されている人物の特定に役に立ちます。

8)写真の技術水準
他の古美術品などの鑑定と同様に、撮影技術やプリント技術、彩色技術のレヴェルなど、写真の技術水準の精細な調査は、古写真を鑑定する上で重要なポイントとなります。写真の出来不出来は、美術・骨董品としての古写真の価値を左右するばかりでなく、作者の写真史的な位置づけや、写真の性格を知るための手掛かりとなるのです。

9)ポーズや構図など
人物写真のポーズのつけ方や構図等の類似性などから、撮影者をある程度絞り込むことができます。ただし、ポーズや構図などには、流行や様式などもあるので、よほど特徴がない限り、これだけで作者を特定することは難しいと思います。

10)スタジオの様子や小道具等
人物撮影に使用されたスタジオの背景や小道具などは、撮影者の特定に役立ちます。すなわち、すでに作者の特定されている写真の背景や小道具等との同一性を観察し、撮影者を特定するのに役立てます。

11)写真の出所
古写真も、他の史料と同様に、被写体となった人物の子孫の家から出てくるなどといったことがしばしばあります。こうした場合には、伝承や関連史料などから、モデルとなった人物の特定などに関する種々の情報が得られやすいと言えます。

12)現地調査
野外で撮影された人物写真や風景写真などの被写体・撮影場所等の特定は、必要に応じて現地調査を行うなど、慎重にするべきだと思います。風景は、時代の移り変わりと共に変化することが多く、建物などの場合には、人災や天災により、焼失してしまったり、倒壊・破壊などにより失われてしまった場合もあります。このように風景や建物などを写した古写真を調査する場合には、古地図や古図面などと照合する必要があると思います。

13)モデルの服装や髪型等
モデルとなった人物の服装や髪型などから、撮影時期やモデルの身分・年齢・生活などを読み取ることができる場合があります。ただし、「横浜写真」などのように演出された写真も多いので、注意が必要です。

14)修復の有無
修復の有無を確認することも、古写真の鑑定には必要です。クリーニングがされているために、一見状態が良いように見えても、不適切なクリーニングがされていれば、後日、重大な劣化が起きる場合もあります。修復されている場合には、その修復が適切かどうかが、写真鑑定上、重大なポイントになります。

15)他の写真との比較
作者や被写体がすでに特定されている他の写真と比較することにより、作者や被写体を特定できることがあります。特に人物写真などでは、すでに特定済みの写真との比較で被写体を特定することも多いと言えます。また、ポーズだけを変えて同じ時に撮影した写真などもあり、こうした写真を比較することにより、作者と被写体とが同時に特定できる場合もあります。

16)経験と勘
古写真の鑑定にも、他の文化財の鑑定と同様に経験と勘が必要です。確かな勘は、豊富な経験によって養われることは言うまでもありません。

以上が、私が考えている写真の調査・鑑定法の概略です。何かの参考になったでしょうか?



最後になりましたが、身辺に幕末・明治期に撮影された「古写真」がありましたら、ご連絡下さい!文化財としての写真を後世に残し、写真史研究の発展のために、ご協力下さいますようお願い申し上げます。
| 吉田 成 | 古写真研究 | 15:13 | - | - |
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